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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)43号 判決

東京都大田区久が原3丁目32番4号

原告

フジコン株式会社

同代表者代表取締役

大島要二

同訴訟代理人弁理士

鈴木正次

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

同指定代理人

産形和央

小泉順彦

奥村寿一

長澤正夫

主文

特許庁が平成2年審判第22539号事件について平成4年1月16日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

主文同旨

第二  事案の概要

本件は、拒絶査定を受け、不服審判請求をして審判請求が成り立たないとの審決を受けた原告が、審決は、相違点を看過し、また、相違点の判断を誤ったものであって、違法であるから、取り消されるべきであるとして審決の取消を請求した事件である。

一  判決の基礎となる事実

(特に証拠(本判決中に引用する書証は、いずれも成立に争いがない。)を掲げた事実のほかは当事者間に争いがない。)

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和59年5月21日、名称を「端子盤」とする考案(以下「本願考案」という。)について、実用新案登録出願(昭和59年実用新案登録願第74132号)したところ、平成2年9月17日拒絶査定を受けたので、同年12月12日査定不服の審判を請求し、平成2年審判第22539号事件として審理された結果、平成4年1月16日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年2月26日原告に送達された。

2  本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲)

基盤(1)の下方開口部内に突設された二本の端子(3、5)の先端部を対向側に凸出した弧状片(3a、5a)とし、下段側の端子(5)は基部をL字状に屈曲してあり、前記端子(3、5)の先端部を下向きに突設し、該先端部は配線基板(6)を上向きかつ垂直方向に挟着可能な間隔で二列に配設した端子盤

(別紙第一参照)

3  審決の理由の要点

(1) 本願考案の要旨は、前項記載のとおりである。

(2) これに対し、昭和56年実用新案登録願第91490号(昭和57年実用新案出願公開第203486号公報)の願書に添付された明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下「第一引用例」という。)には、「絶縁基台1を段状に形成し、上・下段2、3の各上面より押付用のビス4、4、4、4……を平面千鳥状に取付け、絶縁基台1の前面より各ビス4と直交する挿通孔5を設け、また絶縁基台1の後面へプリント基板pの挿入口6を設け、導電金具7の接触面8を各挿通孔5へ臨ませるとともに各バネ脚9を挿入口6へ配設し、絶縁基台1の取付孔10、10を水平に穿つことを特徴とするプリント基板用端子台」(実用新案登録請求の範囲)が別紙第二の第1図ないし第6図とともに記載されている。

また、昭和55年実用新案出願公開第48651号公報(以下「第二引用例」という。)には、「絶縁基台1の下面へプリント基板用の差込口2を有する収容部3を形成し、絶縁基台1の複数個の区画4、4、4……へ配した各結線ビス5に弾性接触脚6aを有する各端子金具6を結合し、各弾性接触脚6aを収容部3内へ収容し、しかも弾性接触脚6aを2個づつ向き合わせて並設することを特徴とする端子台」(実用新案登録請求の範囲)が別紙第三の第1図ないし第4図とともに記載されている。

(3) 本願考案と第一引用例記載のものとを対比すると、第一引用例に記載された上段2に配設される導電金具7のバネ脚9も、先端部を対向側に凸出した弧状片に形成されており、下段3に配設される導電金具7のバネ脚9は、中間部でL字状に屈曲されるとともに先端部を対向側に凸出した弧状片に形成されたもの(第4図及び第5図を参照すること。)であるから、両者は、基盤(絶縁基台1)の開口部(挿入口6)内に突設された二本の端子の先端部(バネ脚9)を対向側に凸出した弧状片とし下段側の端子(下段3の導電金具7)は基部をL字状に屈曲してあり、該先端部は配線基板(プリント基板p)を挟着可能な間隔で二列に配設した端子盤(端子台)である点で一致し、本願考案では、基盤に形成する開口部を下方開口部とし、端子は、先端部を下向きに突設し、配線基板を上向きかつ垂直方向に挟着可能な間隔で二列に配設しているのに対し、第一引用例記載のものでは、絶縁基台1に形成する開口部は、後面に開口する挿入口6とし、導電金具7は、バネ脚9を水平方向に突設し、プリント基板pを横向きかつ水平方向に挟着可能な間隔で二列に配設している点で相違している。

(4) そこで、上記相違点について検討すると、本願考案のように絶縁基台1(基板)の下面にプリント基板用の差入口2を有する収容部3(下方開口部)を形成し、各端子金具6の各弾性接触脚6a(端子の先端部)を収容部3内へ収容(下向きに突設)し、しかも弾性接触脚6aを二個ずつ向き合わせて並設(配線基板を上向きかつ垂直方向に挟着可能な間隔で二列に配設)した端子台(端子盤)は、第二引用例にも記載されているように、本件出願前周知の事項であるから、端子盤の基盤に設ける配線基板挟着用の開口部を、第一引用例記載のものにかえて、本願考案のように下方開口部として、その下方開口部内に端子の先端部を下向きに突設し、該先端部で配線基板を上向きかつ垂直方向に挟着可能であるように構成することは、格別困難なことではない。

また、本願考案の要旨とする構成によってもたらされる作用効果も、第一引用例及び第二引用例記載のものから当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

(5) 以上のとおりであって、本願考案は、第一引用例及び第二引用例記載のものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法3条2項により実用新案登録を受けることができない。

4  本願明細書に記載された本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果

(この項の認定は甲第2号証の1、2による。)

(1) 本願考案は、端子盤に関するもので、電気器具の製造・使用の分野で利用されるものである(平成2年12月12日付手続補正書添附の明細書(以下「補正明細書」という。)1頁14行ないし15行)。

従来、端子盤は種々の構造のものが提案されているが、端子の先端部は単に基盤から突出しているのみであった。従来の端子盤においては、端子の先端部とプリント基板等の配線基盤との接続は通常ハンダ付に頼っていた。そのために接続に手間がかかるのみならず、接続の信頼性にも難があった。本願考案は、かかる問題点を解決すること(同1頁17行ないし2頁7行)を技術的課題(目的)とするものである。

(2) 本願考案は、前記技術的課題を解決するために本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲)記載の構成(補正明細書1頁4行ないし9行)を採用した。

(3) 本願考案は、前記構成により、基盤に取り付けられた複数の端子の先端部を配線基盤挟着可能な間隔で二列に配設したので、端子の先端部間で配線基板を挟着することができる。そして、ハンダ付等によることなく、単に配線基板の一側を挿着することにより、簡単かつ確実な接続をすることができる作用効果がある。さらに、端子の基板に対して、端子の両先端部は、下向に突設され、かつ対向側に凸出した弧状片としてあるので、配線基板を上向かつ垂直方向に挿入すれば、先端部の凸弧状片が弾性的に配線基板の表裏両面と均一に当接する。したがって、配線基板を表裏別回路とした際に、該表裏回路と前記端子の先端部とは等圧で均一に接続される作用効果がある。また、下段側端子の基部をL字状に屈曲したので、上段側端子とほぼ同様の弾性(弾力)を保有させることができるという作用効果がある(補正明細書4頁7行ないし5頁4行)。

5  その他の争いがない事実

第一引用例には審決認定の技術内容が記載されている。また、本願考案と第一引用例記載のものとの一致点及び相違点は審決認定のとおりである。

二  争点

原告は、審決は、本願考案と第一引用例記載のものの技術内容を誤認して相違点を看過し(取消事由1)、また、本願考案、第一引用例記載のもの、第二引用例記載のものの技術内容を誤認し、本願考案の奏する顕著な作用効果を看過した結果、相違点の判断を誤った(取消事由2)ものであって、違法であるから、取り消されるべきである、と主張し、被告は、審決の認定判断は正当であって、審決に原告主張の違法はないと主張している。

本件における争点は、上記原告の主張の当否である。

1  相違点の看過に関する双方の主張

(1) 原告の主張(取消事由1)

審決は、本願考案と第一引用例記載のものとの次のような重要な相違点を看過している。

すなわち、本願考案においては、開口部内に突出した二本の端子のうち下側の端子は、基部をL字状に屈曲しており、その先端を更に下向きに屈曲して配線基板の挟着部を形成し、他方の端子とともに各部構造が全部開口部内に収められており、その結果、本願考案の開口部においては、下段側の端子の取付基端が配線基板の挟着部に近いにもかかわらず、両端子の自由な弾性変形が可能であり、上段の端子と同一性のある弾力性を保有して配線基板をほぼ等圧挟着する作用効果を発揮する。

これに対し、第一引用例に記載されたものの挿入口内には、一方の端子の弧状部と他方の端子のL字屈折の先端側(弧状部)が配置されているに留まり、L字状の屈曲部の先端側で挟着部を構成したにすぎず、この挿入口では端子の弾性変形が著しい制約を受け、本願考案のような作用効果もないことは、明らかである。

(2) 被告の主張

本願考案の開口部について、本願明細書に「二段のひな段状とした基盤1の上段2に複数の端子3の基端部が一列に固定してあると共に、下段4にも複数の端子5の基端部が一列に固定してある。前記両端子3、5の先端部は夫々横一列をなして基盤1の下方開口部1aへ臨ませてある」(補正明細書3頁8行ないし12行)と記載されていることを参酌して本願考案に係る実用新案登録請求の範囲に記載された事項を解釈すると、「開口部内には、(a)突設された二本の端子(3、5)の先端部が対向側に凸出した弧状片(3a、5a)として臨ませてあり、(b)端子(3、5)の先端部は下向きに突設し、(c)該先端部は配線基板(6)を上向きかつ垂直方向に挟着可能な間隔で二列に配設した」構成が記載されており、「下段側の端子(5)は基部(基端部)をL字状に屈曲して、固定されている」のであるから、「開口部内には、両端子(3、5)の先端部が対向側に凸出した弧状片(3a、5a)となっていて、その先端部が配線基板を挟着可能な間隔で二列に配設して臨ませてある」構成を採ることが、本願考案の要旨としては必要十分であると解される。

他方、第一引用例記載のものにおいては、上段2に配設される導電金具7のバネ脚9は先端部を対向側に凸出した弧状片に形成されており、下段3に配設される導電金具7のバネ脚9も、その先端部を対向側に凸出して弧状片に形成されて、水平方向から配線基板を挟着可能な間隔で、二列に配設されているので、第一引用例記載のものでは、「挿入口6には、上、下段の端子の先端部を対向側に凸出した弧状片とし、それらが配線基板を挟着可能な間隔で二列に配設して臨ませてある」構成が採られている。

したがって、第一引用例記載のものの挿入口(6)内にも本願考案の開口部内にも、両端子の対向側に凸出した弧状片に形成された先端部が配線基板を挟着可能な間隔で二列に配設されているということができ、審決に原告主張の相違点の看過はないというべきである。

もっとも、原告は、本願考案の要旨における「前記端子(3、5)の先端部を下向きに突設し」という部分を、「下段側の端子(5)は基部をL字状に屈曲してあり」の部分と一体化して論じ、それを論拠に相違点の看過を主張するが、本願明細書には、「下段側の端子の基部をL字状に屈曲したので、上段側端子とほぼ同様の弾性(弾力)を保有させることができる」(補正明細書5頁2行ないし4行)と記載されているように、「前記端子(3、5)の先端部を下向きに突設し」の部分と「下段側の端子(5)は基部をL字状に屈曲してあり」の部分とは、当然別個の構成要件であることが明らかであるから、原告のこの主張は失当である。

また、原告は、本願考案において、下段側の端子が「その先端を更に下向きに屈曲して」いることを構成要件とするとの主張をしているが、本願考案に係る実用新案登録請求の範囲の記載によれば、下段側の端子がL字状に屈曲するのは、その基部においてであるから、原告が主張する「その先端を更に下向きに屈曲して」の構成は、本願考案の要旨に含まれず、原告の主張は理由がない。

(なお、審決が4頁7行ないし8行において「中間部でL字状に屈曲される」とした部分は、「基部でL字状に屈曲される」と記載すべきものの明白な誤記である。このことは、審決が、本願考案と第一引用例記載のものとの一致点の認定に際し、その部分が「基部をL字状に屈曲してあり」と対応していることから明らかである。)

2  相違点の判断の誤りに関する原告の主張(取消事由2)の要旨

審決の相違点についての判断は、本願考案、第一引用例記載のもの及び第二引用例記載のものの技術内容を誤認し、本願考案の顕著な作用効果を看過した結果に基づくもので、誤りである。

〈1〉 第二引用例記載のものは、左右対称形であるから、配線基板をほぼ等圧挟着できることは、当然であり、他方、弾性変形できる程度は小さい。

これに対し、本願考案は、上下段のある端子盤において端子とプリント基板との当接圧力をほぼ等圧にするために端子盤の改良をした考案である。また、本願考案では、開口部は両端子の取付部以外の全部を収容し、開口部内で端子の大部分が弾性変形しやすい。

このように、第二引用例記載のものと本願考案とは、技術内容が異なるから、第二引用例を適用して本願考案に想到することは困難である。

〈2〉 第一引用例記載のものでは、両端子は形状等が異なり水平に配置され各端子の挟着圧力が変るおそれがあるのに対し、第二引用例記載のものの両端子は、形状等が同一で左右に配置されている。

したがって、第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとは、端子金具収容に関する技術内容を異にしており、第二引用例記載の事項を第一引用例記載のものに代えて本願考案のように構成することはきわめて容易とはいえない。

〈3〉 本願考案は、下段端子をL字状に屈曲する構成により、(a)配線基板を上向きかつ垂直方向に挿入挟着でき、(b)配線基板の表裏と両端子とがを均一圧力でかつ弾力的に当接するという、第一引用例記載のもの、第二引用例記載のものにはみられない格別顕著な作用効果を奏するものである。

第三  争点に対する判断

一  取消事由1について

1  本願考案の要旨の解釈について

(1) 実用新案登録請求の範囲の記載について

前記認定の第二の一2の事実によれば、本願考案において、二本の端子(3、5)が基盤(1)の下方開口部内に突設されており、したがって、各端子(3、5)は、それぞれ突設のための固定部分と弾性変形が可能な開口部内への突出部分とを有していることが認められるが、本願考案の実用新案登録請求の範囲には、下段側端子(5)のL字状屈曲については、「下段側の端子(5)は基部をL字状に屈曲してあり」との記載があるのみで、その屈曲部位である基部と固定部分又は突出部分との対応関係については特に明示した記載はないことが明らかである。

そこで、この対応関係について検討してみると、上記のとおり下段側の端子(5)も固定部分と開口部内への突出部分とからなるのであるから、その固定部分は当然にその端子の基部に該当し、又は、特段の規定がない以上少なくともその端子の基部とは上記固定部分を排除しない、と解する余地がある。

しかし、他方で、上記固定部分は、明示的な構成要件とされていないことから判断すると、端子(3、5)の突設のための単なる前提要件にすぎず、本願考案はもともと開口部内に突設された端子(3、5)の突出部分の構造に関する考案であって、下段側端子(5)の上記基部と固定部分又は突出部分との対応関係について特に記載がないのは、上記基部が下段端子(5)の突出部分の基部であることを当然の前提としているからにほかならないと解すべき可能性もある。

したがって、本願考案における上記下段側端子(5)の基部の意義、すなわちその基部でのL字状屈曲が上記突出部分(自由な弾性変形が可能な部分)での屈曲をいうものかどうかは、本願考案の実用新案登録請求の範囲の記載だけから一義的に明確であるということはできないから、明細書の考案の詳細な説明及び願書添附の図面の記載を参酌して認定するのが相当である。

(2) 本願明細書の考案の詳細な説明及び願書添附の図面の記載について

〈1〉 甲第2号証の2によれば、本願明細書の考案の詳細な説明の欄には、下段側の端子(5)の基部をL字状に屈曲した前記の構成については、「課題を解決する為の手段」の項において、前記実用新案登録請求の範囲の記載と同一の「下段側の端子5は基部をL字状に屈曲してあり」(補正明細書2頁11行ないし12行)との記載があるのみで、それ以上にこの構成を説明する記載がないことが認められる。

しかしながら、同証によれば、また、本願明細書の考案の詳細な説明の「考案の効果」の欄には、「下段側端子の基部をL字状に屈曲したので、上段側端子とほぼ同様の弾性(弾力)を保有させることができる」(補正明細書5頁2行ないし4行)との記載があることが認められ、この記載によれば、本願考案においては、下段側端子(5)の基部におけるL字状屈曲が上段側端子との弾性(弾力)の差を調整するという作用効果を奏することが明らかにされている。L字状に屈曲したことによりこのような作用効果を挙げることができるといいうるのは、下段側端子(5)が少なくとも開口部内に突出した自由に弾性変形が可能な部分でL字状に屈曲している場合に限られることは、技術上明白であって、当業者には容易に理解し得るというべきである。

そして、甲第2号証の1、2によれば、本願考案の実施例を示す別紙第一の第3図には、上記の作用効果の記載と対応して、下段側端子(5)をその開口部内への突出部分(自由な弾性変形が可能な部分の基部)においてL字状に屈曲(同図面上において「5」の引出線の始端部付近の屈曲として表されている。)した構成が図示されていることが認められる。

以上の明細書及び図面の記載に照らせば、本願考案の要旨でいう下段側端子(5)の基部におけるL字状屈曲とは、その端子の開口部内への突出部基部での屈曲をいうと解するのが相当である。

〈2〉 被告は、本願明細書に補正明細書3頁8行ないし12行の記載があることを理由に、本願考案の要旨記載の構成は、開口部内に各端子(3、5)の先端部(配線基板挟着部)を臨ませたもので足り、下段側端子(5)のL字状屈曲に関する構成は、基端部のL字状屈曲により下段側端子(5)が固定されている構成をいうと解すべきである、との趣旨の主張をしている。

確かに、甲第2号証の1、2によれば、本願明細書の考案の詳細な説明の「実施例」の項には、「二段のひな段状とした基盤1の上段2に複数の端子3の基端部が一列に固定してあると共に、下段4にも複数の端子5の基端部が一列に固定してある。前記両端子3、5の先端部は夫々横一列をなして基盤1の下方開口部1aへ臨ませてある」(補正明細書3頁8行ないし12行)との記載があること、この記載に対応して本願考案に係る願書添附の別紙第一の第3図には、二段のひな段状とした基盤下方の開口部に先端部を臨ませた下段側端子(5)の基端部を基盤に沿う水平方向に屈曲して、すなわち向きを別にすればL字状と認めうる形状に屈曲して、基盤の下段にねじ止めにより固定した構造が図示されていることが認められる。

しかしながら、甲第2号証の1、2によれば、上記実施例の記載をみても、下段側端子(5)の基端部をL字状に屈曲した固定構造が単に第3図に図示されているというだけであって、特にこの構造について説明がないというに留まらず、本願明細書の考案の詳細な説明中には上記固定構造に関する記載が一切見当らないことが認められるから、このような固定構造が本願考案において格別の技術的意義をもつということは難しい。

かえって、甲第4号証の1、乙第1号証によれば、第二引用例には別紙第三第2図が添附され、名称を端子台とする考案が記載されていること、昭和56年実用新案出願公開第131680号公報(以下「周知例」という。)には別紙第四の図面が添附され、名称を端子台付プリント基板用コネクタとする考案が記載されていること、第二引用例における端子台及び周知例における端子台付プリント基板用コネクタは、いずれも二本の端子をそれぞれ基端部で基盤に固定し、それぞれの先端部を基盤下方の開口部に臨ませて配列した端子盤であるが、これら端子盤における各端子の固定構造は、いずれも端子基端部をL字状に屈曲して基盤にねじ止めしたものであること(別紙第三、第四の各図面参照)が認められる。したがって、本願考案の実施例における上記固定構造は、先端部を基盤下方の開口部に臨ませた端子の固定構造として通常採用されているものを単に図示したにすぎないと解することができる。

しかも、本願考案の実施例の上記図示態様においては、下段側端子(5)についてのみその基端部をL字状に屈曲した固定構造が示されているけれども、考案の詳細な説明における上記実施例の記載において下段側端子(5)の固定と上段側端子(3)の固定とが対等に説明されていること、甲第4号証の1、乙第1号証により明らかな、第二引用例及び周知例記載の端子盤においても二本の端子の固定構造に差はなく、いずれも端子基端部をL字状に屈曲して固定するものであることに照らせば、本願考案実施例の上段側端子(3)についても下段側端子(5)同様の固定構造が採られることが、明らかである。ところが、本願考案の要旨において、下段側端子(5)についてのみ基部がL字状に屈曲されることが明記されている。

そうすると、本願考案の要旨にいわゆる下段側端子(5)の基部におけるL字状屈曲とは、上記の従来周知の固定構造におけるL字状屈曲、すなわち端子基端部のL字状屈曲ではなく、下段側端子(5)を、その自由に弾性変形が可能な開口部内への突出部分の基部でL字状に屈曲して上段側端子(3)との弾性(弾力)の差を調整するようにしたものと解するのが相当であって、上記の被告の主張は採用することができない。

2  本願考案と第一引用例記載のものとの対比

前記第二の一3及び5の事実によれば、第一引用例記載のものでは、挿入口(開口部)内には、一方の端子と他方の端子による配線基板の挟着部、すなわち配線基板を挟着可能な間隔で二列に配設され対向側に突出する弧状片とされた各端子の先端部が、配置されているにすぎないことが明らかである。

これに対し、前記1の検討の結果によれば、本願考案は、開口部(挿入口)内において下段側端子の基部(開口部内への突出部分の基部)をL字状に屈曲した点を構成要件としているということができる。

したがって、第一引用例記載のものは、本願考案のこの構成要件を備えていないのであるから、この点で本願考案と相違し、前記1(2)〈1〉において認定した本願考案の奏する「下段側端子の基部をL字状に屈曲したので、上段側端子とほぼ同様の弾性(弾力)を保有させることができる」との作用効果を奏しえないというほかはない。

3  相違点の看過について

そうすると、上記2において述べた点を相違点として認定しなかった審決には、相違点を看過した違法があり、これが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

二  よって、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求は正当であるから認容すべきである。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙第一

〈省略〉

別紙第二

〈省略〉

別紙第三

〈省略〉

別紙第四

〈省略〉

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